新潟市における航空機産業、エンジン全開準備OK!

 

新潟経済社会リサーチセンターの佐藤です。本日は、新潟市が進めている航空機関連産業育成の取り組みの様子をご紹介します。

米欧などの先進国とともに新興国においても経済が成長し、全世界のヒト、モノの動きが拡大しつつあります。日本航空機開発協会の資料によると、世界の航空旅客輸送量は1996年から2016年の20年間で2.6倍となりました。年平均の伸率は4.9%であり、さらに今後20年間も年平均4.6%の割合で伸びることが見込まれています。

世界的な旅客輸送量の伸びに伴い、現在約22千機が運航されている世界のジェット旅客機は、今後2036年までの20年間で、老朽化に伴う入替16千機、新規製造17千機もの大きな需要が発生する見込みです。しかし日本航空宇宙工業会の資料では、日本における2014年の航空宇宙工業の生産額は約2兆円に留まっています。米国の22兆円は別格ですが、フランス6.9兆円、イギリス5.1兆円、ドイツ4.5兆円と比べてもまだ小さいです。日本においては第2次大戦後の一時期に航空機メーカーが活動停止を余儀なくされた時期もあったため、航空機部品メーカーの数も少ないまま現在に至っています。そのため、日本の大手重工がボーイングやエアバスなどの海外の主要航空機メーカーから機体や部品の製造を受注するものの、国内の2次下請け、3次下請け企業が不足している状況にあります。日本において航空機の機体や部品の製造を伸ばす余地は十分にあるようです。

 

新潟市による航空機産業育成 取り組み経緯

新潟市は航空機産業の将来性に早くから着目し、同市ならびに近隣地区に集積する機械部品製造や金属加工の技術を航空機の部品製造に活用できないものかと検討を重ねて来ました。2009年3月にまとめられた新潟市企業立地促進基本計画において、食品・バイオ関連産業、高度ITシステム関連産業、新潟港湾活用などと並んで、成長が期待され特に産業振興を支援する分野の1つとして航空機産業が既に掲げられています。

新潟市(企業立地課 航空産業立地推進室)の宮崎博人室長に、全国に先んじて航空機産業に着目した経緯や、現在「NIIGATA SKY PROJECT」(新潟スカイプロジェクト)として進めている航空機産業育成施策の進捗状況などをお聞きしました。

新潟市が企業立地促進基本計画をまとめる少し前の2005年頃は、全国各地で企業誘致活動が活発に行われていた時期でした。新潟市も積極的に誘致活動を展開したものの、誘致する業種と経済施策との一貫性や他県の市町村との差別化策を明確に打ち出せず、誘致活動はなかなか進みませんでした。力強い勧誘を行うには、誘致する業種を絞り、その業種を支援する特色ある施策を併せ持つ必要を痛感したそうです。

そのような活動を行っていた2006年、たまたま航空機部品の製造を行うYSEC(横浜市)から、新潟地区に工場を建設したいとの相談がありました。進出に向けた協議を重ねながら航空機業界を研究するうちに、冒頭に記載した今後の航空機需要の見通しや国内における中小部品メーカー不足などの業界特性を認識し、大きな将来性を感じたそうです。当社の進出を支援するとともに、業界を研究して経済施策をうまく組み合わせることで、新潟市ならびに近隣地区において航空機関連の産業を育成できるのではないかと考えるに至ったとのことです。

 

中小企業による航空機部品の一貫製造体制ができる

新潟市は、YSECグループとの協議や国内の大手重工への徹底的なヒアリングを通して、中小の航空機部品メーカーが何を求められているのかを探りました。航空機部品製造には、規格が厳しい、部品数が非常に多いなど様々な特徴がありますが、中小の部品メーカーにとってハードルが高いのは大手メーカーから複数工程の一貫対応を求められることです。一般的に中小企業は、自社が技術を持つ工程は得意ですが、それ以外の工程については技術や設備が不足していることから、1社が複数工程をまとめて受注することは難しいです。そのため、従来はひとつの工程が終わるごとに仕掛品をメーカーの検査部門へ送り、その仕掛品を次の工程を担当する企業に送るなどの方式を取っていました。時間や手間がかかり効率的とはいえず、大手メーカーが下請企業に一貫対応を求める傾向が徐々に強くなっていたそうです。

このような状況を勘案し、新潟市はYSECグループのJASPA株式会社を誘致し、当社ならびにグループ企業2社、さらに当社の取引会社1社の計4社が当市西蒲区の同じ工場敷地に進出し、各工程を分担することで特定の航空機部品の製造を完結させる体制を整えました(以下「西蒲区のJASPA共同工場」、図1参照)。複数の中小企業が入居する工場で部品の製造を一貫受注するこの体制は、国内初の取り組みでした。

 

(図1)西蒲区のJASPA共同工場イメージ 4社が分担して航空機部品の受注、製造、検査を行なう  新潟市提供(以下同じ)

 

中小企業による共同工場での製造体制に発展

西蒲区のJASPA共同工場はYSECグループが構成企業の大半を占めますが、新潟市はこの事案を参考とし、新たな共同工場の検討を進めました。優れた切削技術、表面加工技術、または検査技術を持つ個別・複数の中小企業が同一工場に集まり、協力して多工程一貫受注を目指す考えです。

2015年3月、新潟市は南区の工業団地において「戦略的複合共同工場」(以下「南区の共同工場」)を立ち上げました。公益財団法人新潟市産業振興財団(以下「新潟IPC財団」)が事業主体となり、新潟市が所有する工業団地の1区画約8,400平米を借り上げ、国の補助金なども受けながら工場を建設しました。これを貸工場として活用し、航空機関連の部品製造に参入する中小企業を施設面から支援します。建物内には新潟IPC財団が運営する「地域イノベーション推進センター」(以下「推進センター」)を設置し、航空機部品製造における品質管理、部品用のCADソフト、部品製造に関する国際規格の取得などに関する相談やセミナーを行い、この共同工場に入居する企業や航空機産業への参入意欲がある中小企業の人材育成を支援する体制も整えました。

 

新潟市南区の戦略的複合共同工場

 

公募の結果、金属加工、表面処理及び塗装、非破壊検査などを得意とする中小企業7社で構成するグループ、NSCA(注)が南区の共同工場を活用することとなり、現在大手メーカーからアルミ機体部品や装備品製造の受注を獲得することを目指しています。7社とも従来からセミナーや研究会に積極的に参加し、航空機産業への参入に意欲を示していたそうです。

本年5月中旬、南区の共同工場を見学させていただきました。工場内は各社が連携しやすいよう機械加工、表面化学処理などの工程毎に区画が決められており、工場中央には十分な荷さばきエリアも確保されているなど機能的にレイアウトされています(図2参照)。

(図2)南区の共同工場
上右 航空機用アルミ部品の表面処理装置
下左 5軸制御マシニングセンタ 3mの部品も対応可能
下右 3次元測定器

しかしこの日は切削加工を担当する会社の機械のみが稼動しており、やや寂しい感じでした。新潟市の担当者によると、大量の受注を得るまでにはまだいくつものハードルがあるとのことです。航空機部品製造に参入する企業は、まず品質管理の国内規格JIS Q 9100を取得し、そのうえでさらに大手メーカーが定める固有の規格もクリアしなければなりません。また機械加工、熱処理、表面処理、非破壊検査など、特殊工程と定められた18工程については厳格な国際規格の取得も求められます。これらの規格を取得し、試作品の評価を受け、受注実績を重ねながら徐々に注文量が増えて行くのだそうです。

現在、7社のグループのうち4社が航空機部品製造に関する国内規格JIS Q 9100を取得済みであり、これにより切削加工による部品製造の取り組みが行われているところです。うち1社が本年7月に表面処理に関する国際規格を取得したため、今後は表面処理工程も南区の共同工場で取り組むことが可能となりました。グループの他の企業が国内規格や特殊工程に関する国際規格を取得することで徐々に仕事の幅が広がり共同工場の稼動が本格化する見込みです。

特に国際規格の取得は難度が高く、資料作成や面接審査の対応(すべて英語!)など、企業の技術者は相当な時間を割いて準備を行う必要があります。人材が不足がちな中小企業にとって共同工場に設置された推進センターにおいて様々な指導を受けることができる効果は大きいと思われます。

また中小の部品メーカーは、大手メーカーから十分な生産余力を持っているかどうかもチェックされるため、受注に先行して大型設備を導入しなければならず、この資金負担も重荷となります。十分な注文を得るまでの間は設備投資が先行するので、行政による共同工場の建物整備や大型設備機械導入に係る補助なども中小企業には大きな支援となります。新しい産業を育成するにあたり、行政による人材育成支援策や設備・施設に関する支援は大きなポイントのようです。

 

航空機産業育成 新潟市の今後の方針

宮崎室長に、新潟市ならびに近隣地区における航空機産業育成について今後の方針などをお聞きしました。

今般西蒲区のJASPA共同工場において、事業に参加している1社が非破壊検査の国際認証を取得し、当該工場において部品製造とともに検査を行う体制が整いました。これにより双方の工場を連携させることで稼働率アップを目指す予定です。将来的には、2つの共同工場においてより多くの国内規格・国際規格を取得して取り組み可能な製造工程を広げます。これにより、自社でカバーできない工程について共同工場との連携を望む企業などを近隣区画へ誘致し、一帯を徐々に航空機部品製造の集積エリアにしていきたいとしています。自社の技術を活かしこの分野への参入を検討したい企業は、新潟市(航空産業立地推進室)に照会をいただきたいとのことです。

新潟市は航空機関連産業の育成により、今後2020年度まで毎年約40人の雇用を創出することを目指しています。現在、多くの地方都市が首都圏などへの人口流出
に頭を痛めていますが、地域に有力な雇用の受け皿を創ることは効果的な対策です。地域のみならず県外からも企業や人材が集まり、新潟市および近隣地区が航空機
関連産業の一大集積地となることを期待したいものです。

 

=

 

『センター月報』2017年9月号の「潮流 県内最新トピックス 第14回」を加除修正しました。